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【ブログ】くろまろ塾 大学連携講座 高野山編 密教の実践の意味するところ(1) 金剛(こんごう)杵(しょ)の秘密

印刷ページ表示 更新日:2024年3月3日更新
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【ブログ】くろまろ塾大学連携講座 -高野山大学編-

密教の実践の意味するところ(全3回シリーズ)

第1回 金剛(こんごう)杵(しょ)の秘密

1.今回のレポート

こんにちは。くろまろ塾運営ボランティアスタッフの栗栖です。

今回のレポートは、高野山大学による6シリーズ目の講座で、主題の通り 「密教の実践の意味するところ(全3回シリーズ)」 第1回 金剛(こんごう)杵(しょ)の秘密 となります。

これまでの開催済シリーズは、2017年「密教の思想と芸術」、2018年「弘法大師と高野山」、2019年「高野山と密教-仏教の世界-」、2020年「空海-秋日観神泉苑-」、2022年「弘法大師空海の生涯-高野山開創とその背景-」です。(ブログなどの記録より)

2.講師

高野山大学 副学長・密教学科教授 松長潤慶(まつながじゅんけい)先生。上記のシリーズとは別に、2022年「学位授与式・特別講演会-空海と河内長野ー」で講演されています。

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画像1)オープニング

 

3.レジュメ

配付されたプリント「金剛杵vajraの秘密」では、弘法大師 御影、南無大師遍照金剛、飛行三鈷杵(重要文化財)、密教の成立、vajraの由来、中国でのvajraの解釈、仏教におけるvajraの展開、金剛薩埵、『金剛頂経』の別序と要約、マンダラの語源と種類などが織り込まれています。

以下は、講演の報告ですが、要約することが難しいため少々長くなっています。ご了承下さい、

なお、■印はプリントからの引用、□印は講演中の先生による補足説明、小文字は、筆者が理解を深めるため、講演中に紹介されたYouTube番組 「高野山大学 教養講座#2弘法大師空海が持つ金剛杵の意味とは?」 画像2)参照、及びNet検索などから引用したものです。

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画像2)高野山大学YouTube番組より

 

4.講演の報告

4.1 弘法大師 御影

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画像3)弘法大師 御影

 

□画像3)は、右手にvajraを持つ弘法大師の御影。vajraは密教の大事な法具です。

注)講座案内のリーフレットには、 『平安時代に活躍した弘法大師空海が右手に握りしめている金剛杵(こんごうしょ)は、空海が当時の唐で学んだ密教の教えを象徴する仏具でもあります。今回の講義では、金剛杵を通じて空海の学んだ密教がいかなるものかを一緒に学んでいきます。』 と記されています。

4.2 南無(なむ)大師(だいし)遍照(へんじょう)金剛(こんごう)

南無・・・namo 帰依(きえ)するイ)。(サンスクリット語;以下同様)

遍照金剛・・・空海が伝法(でんぽう)灌頂(かんじょう)ロ)で恵果(けいか)和尚より賜わった灌頂(かんじょう)名。

□遍照金剛は、弘法大師・空海の別名。遍(あまね)く照らす金剛の意。空海は、唐で約2年間修行した後、遣唐使の船で帰国した。

イ)神仏や高僧を深く信仰し、その教えに従い、その威徳を仰ぐこと1)。

ロ)阿闍(あじゃ)梨(り)という指導者の位を授ける儀式。真言宗では、伝法灌頂を受け阿闍梨位を得て、はじめて正式な僧侶と認められる2)。

4.3 飛行三鈷(ひぎょうさんこ)杵(しょ)(重要文化財)

□密教の教えでは金剛杵は大きな意味を持つ。飛行三鈷杵には、空海が唐から投げたところ高野山に着いたという伝承がある。

□画像4)に見られるように、三鈷杵は両端の刃先が3つずつであるが、五鈷杵や単鈷杵もある。

□密教は、インド↠インドネシア↠唐の海洋航域で伝わった。インドネシアのジャワ中部では、五鈷杵が出土している。

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画像4)飛行三鈷杵(重要文化財)

4.4 密教の成立

■密教は、七世紀頃にインドで成立した教え。紀元前五世紀頃に成立した仏教の発展形態の教えとされる。

■Mantra yāna真言乗(しんごんじょう)(密教)に対して、Pāramitā yāna波羅密(はらみつ)乗(じょう)(顕教)がある。

□Mantra は乗る真言、 Pāramitāは悟りに至る、 Yānaは乗り物(教え)を意味する。

■『金剛(こんごう)頂(ちょう)経(ぎょう)』ハ) Vajra yāna(金剛乗)は密教の別名で「金剛の性質に基づいた教え」であり、顕教に比して絶対なる乗り物(教え)を意味する。

ハ)大乗(だいじょう)仏教(ぶっきょう)ニ)の密教部経典。空海は、恵果和尚から教わった「金剛頂経」の教理と実践方法を日本に始めて伝えた。日本では、初回(しょえ)金剛(こんごう)調経(ちょうぎょう)という。真言宗では最も重要な経典とされる。3)。

ニ)ユーラシア大陸の中央部から東部にかけて信仰されてきた仏教の宗派。大乗とは、偉大なる教え・優れた教えを意味する。出家者に限らず在家者も含めた一切の衆生の救済を掲げる仏教宗派の総称で、日本の仏教の主な宗派はすべて大乗仏教に分類される4)。

4.5 vajraの由来

■ヴェーダ文献にvajraを執る雷神インドラIndraが登場するのが初出である。

□ヴェーダ文献はバラモン教の聖典。古代インドに浸入したアーリヤ人(コーカサス地方が原住地)は、ヴェーダの神々を信仰するバラモン教と結び付き、さらにヒンドゥー教に深化して深く浸透した。

■ヴェーダ賛歌において形成されたvajraの概念は雷である。Indraにまつわる性質である雷鳴(音)、雷光(光)、雲雲、雷に伴う雨、風などのすべてを伴ったもの。

□雷による音と光は、空間のあらゆる所に遍満している。(あまねく存在すること)

■ヒンドゥー教の教理体系において、vajraにより水の神であるVṛtraホ)を倒し、雨をもたらす雷神としての地位を固める。vajraは雷をおこして敵を倒す武器。

□当時のインドは農耕民族で、水が大事であった。

ホ)Vṛtraヴリトラは、水を堰き止めて干ばつを起こすとされる水の悪神。武具・金剛杵vajraを用いたIndraに殺される。 画像5)のインドラ神の彫像では、右手に持つvajraは両端が鋭く尖った杵のような形をしている5)。

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画像5)インドラ神の彫像(ウィキペディアより引用)

 

4.6 中国でのvajraの解釈

■vajraは敵を倒す武器で堅固な性質を持つ。Vajraの用語は中国では金剛石、または金剛杵と翻訳される。 すなわち、金剛石・・・堅固な石 ダイヤモンド  金剛杵・・・インドラの持つ堅固な武器

■我が国の伝統教学では、金剛杵は「堅固なる菩提心の象徴(悟りに向かう心)」と解釈されることが多い。

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画像6)ガンダーラ仏像

 

4.7 仏教におけるvajraの展開

■仏教においては、金剛杵を手にする尊(そん)格(かく)金剛手(こんごうしゅ)[Vajrapāṇi]が登場し、その成立の初期段階では主尊を守る夜叉(やしゃ)神(じん)、護法(ごほう)神(じん)の性格を持っていた。

□インドでは左手で尻を拭くため右手の方が左手よりも上位とされる。インドの尊格金剛手は金剛杵を右手に持つ。画像6)参照

□日本では、仏の警備員である山門の金剛力士が左手で金剛杵を持つ。画像7)参照

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画像7)高野山大門 金剛力士像6)

  ■その後、『(「)涅槃経(ねはんぎょう)ヘ)や大宝積(だいほうしゃく)教(きょう)』ト)などに説かれる密迹(みっしゃく)金剛(こんごう) Guhyaka Vajrapāṇiは、仏陀の秘密を最も近くで聞くことの出来る尊格として尊格群の中でも重要な位置を占める。

□平たく言えば、「元々はvajraを持って仏を護る警備員であったが、いつも身近にいることで出世の機会に恵まれた」と言える。

ヘ)宗派涅槃宗<外部リンク>の経典。中国で興ったが、日本には直接伝来しなかった。釈尊<外部リンク>の最後の旅からはじまって、入滅<外部リンク>(宗教的に目覚めた人が死ぬこと)に至る経過、荼毘(だび)と起塔 (塔を建立すること)について叙述する7)。

ト)大乗仏教<外部リンク><外部リンク>の1つ。西域<外部リンク>僧である竺法(じくほう)護(ご)によって編纂・翻訳され、<外部リンク>代の713年<外部リンク>に菩提流(ぼだいる)志(し)が再翻訳し完成させた。総じて「宝を集積した大きな経」の意8)。

■『大日経(だいにちきょう)』チ)では、十九執(しゅ)金剛(こんごう)の上首に金剛手(こんごうしゅ)秘密(ひみつ)主(しゅ)として登場し、金剛手秘密主は、仏の最も近くで説法を聴く密教の主要な菩薩として展開する。

■『金剛(こんごう)頂(ちょう)経(ぎょう)』で教祖大日如来から直接法を受け継ぐ金剛薩埵(こんごうさつた)リ)に展開。

チ)大乗仏教における密教経典。『金剛頂経』と共に、真言密教における根本経典の一つとされる。9)。

   リ)金剛手菩薩とも呼ばれる。薩埵は「勇猛」、「有情」等を意味し、「堅固な浄菩提心によって悪しき有情(衆生)を降伏し勇進する仏」とされる。真言密教付法の第2祖先として重要視される10)。

これよりは、プリントのコピーと先生の補足説明のみとします。(超難解につき筆者の解読は棚上げ)

4.8 『金剛頂経』の別序

■Tattvasaṃgraha「初会金剛頂経」の金剛薩埵の出生段

「普賢大菩薩が菩提心の象徴である月輪となり、一切如来たちの心臓から出て一切如来たちのかたわらに位置する。それぞれの月輪から一切如来(毘盧遮那)の知恵の金剛杵が出現して、毘盧遮那如来の心臓に入る。 それらの金剛杵は一切如来たちの加持により一つに固まり、周囲に普く 光明を放ち、一切如来(毘盧遮那)の心臓から流出して手の上に安立する。 その金剛杵から金剛杵の形をした光線が放たれ、様々な色と形をとって拡散し、一切世界に普く輝き渡る。

さらに、それら金剛の形をした光線の先端から、一切世界の極微塵の数に等しい如来の身が出現し、それら如来たちは、法界全体に遍満した後、 再度一つにかたまり普賢大菩薩の身となり毘盧遮那の心臓に住する。その後、普賢大菩薩は毘盧遮那の心臓から再び出て前方[東]の月輪に移る。 そして毘盧遮那は一切如来知恵三味耶金剛と名づける三昧に入り、普賢大菩薩に金剛名灌頂を授け、金剛手となる。」

 4.9 『金剛頂経』の別序の要約

■普賢大菩薩の菩提心の象徴である月輪から知恵の金剛杵が出現

■金剛杵から金剛杵の形をした光線が放たれ、様々な色と形をとって拡散 し、一切世界に普く輝き渡る

■金剛の形をした光線の先端から、一切世界の極微塵の数の如来の身が出現し、その後、再度一つにかたまり普賢大菩薩の身となり毘盧遮那の心臓に住す

 □光の中に仏が存在する。

■普賢大菩薩は毘盧遮那の心臓から再び出て前方[東]の月輪に移る。そし て毘盧遮那は一切如来知恵三昧耶金剛と名づける三昧に入り、普賢大菩 薩に金剛名灌頂を授け、金剛手(金剛薩埵)となる

□空海が瞑想に入ることで宇宙と一体化し、自然とも一体化する。身体は無くなるが、大師は自然界に溶け込み、いつも側にいて救ってくれる。あらゆる存在が仏様となる。

4.10 マンダラの語源

■古代インドの言葉 サンスクリット語 maṇḍalaが語源

maṇḍa↠円、輪、球、中心、真髄、本質などの意味 物事の本源的な性質は始まりも終わりもない不生不滅[ありのままに存在する]

la↠所有の意味。 maṇḍa+la「真髓、本質を有するもの」の意味

□マンダラは、本来は球体であるが平面にした。

■20世紀を代表する心理学研究者であるユングが行った心理療法臨床試験の中 で、患者が共通してマンダラと共通する図を描いたことで、欧米で注目を浴びる。

↠「集合的無意識」・・・人間は約700万年の歴史を通じて獲得し たDNAに刻まれた「普遍的イメージ」 を有しており、自身の中の心の深層に抱えている対立する 様々な感情を本能的に統合しようとする。

■瞑想から仏へ

マンダラが真理を顕現するまでの展開

○自性(じしょう)マンダラ・・ 森羅万象ありのままの世界  釈迦の悟りの内容そのもの

    ⇩

○観想(かんそう)マンダラ・・観想上の真理の世界  行者の瞑想によりイメージされる真理

    ⇩

○形像マンダラ・・ 図画・彫刻されたマンダラ  我々の現前に顕れた真理

    □マンダラは、目に見えない真理そのものを表す

4.10 マンダラの種類

 ■真理の世界を顕わす四種のマンダラの形態

∘大マンダラ↠尊形で顕わす曼荼羅 (mahā maṇḍala)

↠仏様の姿・形で表現する

∘三昧耶マンダラ↠サインで顕わす曼荼羅 (samaya maṇḍala)

↠仏様の本誓・功徳を象徴する法具等のシンボルで表現する

∘法マンダラ↠法性(法の性質)で顕わす曼荼羅 (dharma maṇḍala)

↠仏様の存在、つまり法のあり方を表現する

∘羯磨マンダラ↠活動を顕わす曼荼羅(karma maṇḍala)

↠仏様の活動 (働き)を表現する

 


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□羯磨マンダラは女性の出生を表す。儒教の影響で唐では女性の衣が厚い。

 

5.終わりに

◆講演後の15分余りの質問時間には、次々と手が挙がりました。 例えば、Q三鈷と五鈷の違いは? Q金剛杵は誰でも持てるのか? Q弘法大師御影に右向きと左向きがあるのはなぜ? Q山伏が行なう修験とは? Q南天の教えとは?  Q 「即身成仏」 についてなど。

これらの質問に一つ一つ丁寧に答えていかれました。また、YouTube番組でも、いろいろと解説しているのでご覧いただきたいとのコメントがありました。

◆講演中に、先生から次の三つのお知らせがありました。

(1)4月27日 空海展で、「インンドネシアのマンダラ」 について特別講演を行なう予定

(2)4月第4水曜日(24日)NHKの番組で 「歴史探偵 弘法大師」 が予定されている

(3)高野山大学 4月新規開講オンライン講座 「密教の基礎知識」 について

松長先生は、高野山生まれの高野山育ち。現在のお住まいは河内長野市内とのこと。密教学博士で学究肌ですが、包容力があってなんとなく親しみを感じられるます。高野山大学開設のYouTube番組でもその人柄に接することができます。

松長先生が、開口一番に 「学術的で一寸難しいかも・・・」 と前置された通りの展開となりました。特に、『金剛頂経』の別序は要約を読んでもちんぷんかんぷん。 でも、筆者のエピソードとしては、子供の時から親しんできた「南無阿弥陀仏」の意味を78歳にして始めて理解できたことでした。ほっこりとして感謝しています。。

レポートは以上です。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

<配付資料>

・松永潤慶 プリント 「金剛杵vajraの秘密」 高野山大学2024年1月11日

<引用Webサイト>2024年1月15日~2024年1月30日

1)https://kotobank.jp/word/帰依-49887#goog_rewarded2)

2)https://ja.wikipedia.org/wiki/伝法灌頂

3)https://ja.wikipedia.org/wiki/金剛頂経

4)https://ja.wikipedia.org/wiki/大乗仏教

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/<外部リンク>ヴリトラ<外部リンク> - Wikipedia

6)https://kouyasan.net/<外部リンク> daimon/

7)https://ja.wikipedia.org/wiki/大般涅槃経 - Wikipedia<外部リンク>

8)https://ja.wikipedia.org/wiki/大宝積経 - Wikipedia<外部リンク>

9)https://ja.wikipedia.org/wiki/大毘盧遮那成仏神変加持経 - Wikipedia<外部リンク>

10)https://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/bosatsu/kongou.html高野山霊宝館【収蔵品紹介:仏に関する基礎知識:金剛薩た】 (reihokan.or.jp)<外部リンク>