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大学連携講座 -近畿大学編-「身近な魚類養殖学」を受講しました!

印刷ページ表示 更新日:2021年7月21日更新
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大学連携講座 -近畿大学編-「身近な魚類養殖学」を受講しました!

みなさま、こんにちは!
お久しぶりです。くろまろ塾運営ボランティアの後藤です。
コロナ禍で何度も延期を余儀なくされたくろまろ塾講座がやっと再開しました!
感染予防対策を講じての講座の様子をレポートします。
よろしくお願いします。

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会場に入る前に検温、そして間隔を開けての受付です。
イベントホールの座席は抗菌・抗ウイルスのコーティング加工をされたそうで、隣との間隔を充分に取っています。

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今回の講座は、近畿大学名誉教授の太田博已先生の「身近な魚類養殖学」です。
第1回「魚の成熟と産卵の仕組み」
第2回「ウナギ・アナゴを作り、育てる方法」
でした。

第2回を受講しましたが、ウナギに関する話とのことで思い出したのが、50余年前の高校1年の英語の教科書に載っていたウナギの一生の何千キロもの旅の話でした。
産卵場所はマリアナ諸島近くらしいが謎、レプトケファルスと呼ばれるヤナギの葉のような幼生に成長し、海流に流されて、陸地に近づくとシラスウナギGlass eelに変態し、河口から川を遡上する・・・というような内容だったように思います。
田舎ののんびりした中学から進学校に入り、英英辞書で予習し英語での授業に慣れるまで涙、涙で、挫折の苦い思い出のウナギなのですが・・・。
その時は知りませんでしたが、太田先生のウナギの産卵場探しと完全養殖の話をお聞きして、当時最先端の研究が教科書に載っていたのだと知り、感慨深いものがあります。
50年経って、ウナギの産卵場所は突き止められ、生活史も詳しくわかり、まだ商業ベースに乗らないものの完全養殖に成功しているそうです。

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ウナギ(正式名は二ホンウナギ)ですが、明治の中頃から小さなウナギを池で飼育し、かば焼きサイズ(200g~)まで育てる養殖が行われていたそうです。
シラスウナギは5cmくらいですが、まだオス・メスの性分化は起こっておらず、20~30cmになって初めて性分化が起こり、養殖では9割8分以上オスになるそうです。(天然ウナギでは1対1)

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現在ウナギの養殖は、未だ100%天然のシラスウナギに依存しています。
シラスウナギの価格が純金の価格と比べられるほど高騰する中で、人工生産技術の開発はどのように進んできたのでしょうか。
ウナギの資源を回復させ、増やすために
(1)1930年代には、天然ウナギの自然界でのライフサイクルの調査(生態学)
(2)1960年代には、人工的に産卵させ養殖する完全養殖の技術の開発(養殖学)
がスタートしました。

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(1)のウナギの産卵場探しは調査船で大型プランクトンネットを使い、レプトケファルス(幼生)を採集することから始まりました。
1960年代には台湾近くでレプトケファルスが見つかり、さらにより小さいレプトケファルスを探すことで、2008年・2009年にはウナギ親魚、2010年には孵化前の受精卵が発見され、マリアナ海嶺付近の産卵場を特定することが出来ました。

産卵場所は「塩分フロント」と呼ばれる潮目で、マリアナ海山付近は地磁気の強さと向きが他とは異なり、地磁気がウナギの脳に働き産卵場に集まると考えられています。

受精卵は40時間で孵化し、北赤道海流に乗ってフィリピン沿岸へ流され、海流が北に向かう黒潮と南に向かうミンダナオ海流に分岐すると、黒潮に乗って台湾近くへやってくるそうです。

(2)の完全養殖の研究は、水槽内では絶対に成熟しないウナギをホルモンを投与して成熟させることから始まりました。
太田先生は北海道大学の学生当時から、サケの脳下垂体をウナギの雌に投与して採卵に成功した山本喜一郎先生の下でウナギの催熟実験を手伝っておられたそうです。

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雄のウナギには妊婦の尿に含まれるヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを注射して精液を採り、雌のウナギにはサケの脳下垂体抽出液を注射して卵を得るという、成功するまで大変なご苦労をされた研究でした。

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ウナギの未受精卵、孵化7日目、224日目の仔魚を実際に見せていただきました。
受精した卵は40時間で孵化し、7日間は自身の卵黄で成長しますが、エサを食べずにそのまま餓死してしまいました。
様々なエサを試してみますが、食べてくれるエサがみつからず、その後25年間研究が停滞したそうです。

このレポートを書くにあたって、偶々図書館で借りた本が1999年出版でしたが、
「ウナギの人工孵化成功(Yamamoto and Yamauchi,1974)以来1999年の現在まで約25年が経過し、かなりの確率でウナギ孵化幼生を得ることが可能になったが、いまだにそれらを育てることができない。」 (『ウナギの科学―解明された謎と驚異のバイタリティ―』 小澤貴和・林征一著)
と書かれていました。
消化管の発達が悪く消化管内容物が見つからないことから、栄養の体表摂取説が提唱され、その後否定されたことや、様々な餌を与えてみたこと、そしてサメ卵の餌で最長27日間生存させ、この成功が世界初であると書かれていて、いかにこの研究が大変だったかわかりました。

この本に書かれているように、サメ卵凍結乾燥粉末を好んで食べると分かったのがまさに1999年でした。
さらにビタミン、ミネラルなどを添加した粥状のエサを給餌方法も工夫して与えることで、2002年にはシラスウナギまで育てることが出来るようになりました。

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2010年にはウナギの完全養殖に成功しましたが、スタートから50年もかかったことになります。
今後の課題はシラスウナギの大量生産技術を開発して、飼育にかかるコストを下げ、商業ベースに乗ることが出来るようにすることです。

遥か数千キロも彼方の海で生まれ、葉っぱのように平たいレプトケファルスとなって大洋を流されて、陸地に近づくと親と同じ円筒形で透明のシラスウナギに変わり、河を上り、大人になると今度は再び産卵をするために長い旅をして生まれた海に戻るウナギは、知るほどに不思議な生き物です。
今回の講座で、太田先生をはじめウナギの完全養殖をめざして50年にもわたって研究を続けておられる方々がおられるのだと知ることができました。
何年か後に完全養殖のウナギが「近大ウナギ」として売り出されたら本当にうれしいです。

最後に、今回もくろまろ塾運営ボランティアの仲間が司会、受付やアンケート回収に活躍してくれました。
お疲れさまでした!