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2017年度に紹介した絵本
4月号
4月はあひるの絵本を紹介します。
公園の池で遊ぶあひる達にも、こんな物語があるのかもしれませんよ。
1 『アンガスとあひる』マージョリー・フラック さく・え 瀬田貞二 やく(福音館書店)1974年7月15日
知りたがり屋のスコッチ・テリア、アンガスが一番知りたかったのは、生け垣の向こう側から “ガー、ガー、ゲーック、ガー!” と聞こえてくるやかましい音の正体でした。ある日、運良く外に出られたアンガスが垣根の向こう側で出会ったものは。
好奇心旺盛なアンガスは子どもそのもの。子ども達はアンガスに同化して、ちょっといばってみたり、逃げたり、安心したりすることでしょう。アメリカで80年以上前に出版されたとは思えないほど、今も新鮮な喜びを与えてくれる絵本です。
アンガスシリーズは5冊が出版されています。また、この本を描いているときにアヒルに興味を持った作者は『あひるのピンのぼうけん』(瑞雲舎)も創作しています。あわせてどうぞ。
(4,5歳くらい~)
2『そらとぶアヒル』内田麟太郎 ぶん 長新太 え(童心社)1995年5月25日
「とべない トリなんか、トリじゃないわ」 いつもハトにからかわれていたアヒルが 「もしかしたら」 と地面をけりました。すると。
ナンセンスなお話を長新太の絵が軽やかにまとめた作品です。アヒルやゴリラ、ゾウ、カバが空を飛ぶ不思議さも、大人にとっては哲学的な会話も、子ども達はありのまま素直に受け止めます。子ども達はとりわけ “ぱっ” と空へ飛び上がるところが大好きです。
あなたも信じれば飛ぶことができるかもしれませんよ!?
(5,6歳くらい~)
5月号
つばめが飛び交う季節になりました。愛らしいヒナ達の誕生ももうすぐです。
今月はつばめの絵本2冊を紹介します。
1.『つばめのたび 5000キロのかなたから』鈴木まもる(偕成社)2009年2月
巣作りのために日本を目指し、5000キロを旅するツバメを描いた絵本です。
ツバメの視点で書かれているので、「だれかが ぼくを よんでいる いかなければ」という力強いモノローグが読者を一瞬のうちにツバメと同化させます。
ツバメの渡りについてはまだわかっていないことも多いそうですが、きっとこんな旅なんだろうと思わせるリアルで美しい絵です。自分の名前を〈巣好き(巣を)守る〉と説明し、鳥の巣の研究家でもある作者。鳥への愛情たっぷりの絵本をどうぞお楽しみください。
(小学校1,2年生くらい~)
2『さるとつばめのやおやさん』ジャン=ミシェル・ギルシェ さく ゲルダ・ミューラー え ふしみみさを やく(パロル社)2003年12月20日
森の中にかわいい八百屋さんがありました。店員はつばめのエルヴィールとさるのバブーン。ところが、食いしん坊のバブーンが店のものをすっかり食べてしまって。
つばめとさるという一風変わった組み合わせですが、しっかり者のエルヴィールはお母さん的存在、食いしん坊で心のままに行動するバブーンは幼い子どもそのもの。親子で普段の生活を重ねつつ読むのも楽しいかもしれません。
穏やかで安心感のある絵も魅力です。カフェオレボールやマルシェかごなどフランスらしい小物も描き込まれています。どこにあるか探してみてくださいね。
(4,5歳くらい~)
6月号
6月はカモの絵本を紹介します。
今年もニュースで愛らしいカルガモ親子の引っ越しが見られるでしょうか。
1.『かもさんおとおり』ぶんとえ ロバート・マックロスキー やく わたなべしげお(福音館書店)1965年5月1日
ここはアメリカ、ボストンの街。チャールズ川の小さな島にかものマラードさんとマラードおくさんの8羽のひなが誕生しました。一週間後、マラードおくさんは子がも達を引き連れて、だんなさんの待つ公園へ向かいます。けれども、公園へ行くには車がたくさん走る大通りを横切らなければならず。
作者がボストンの公園で実際に見たかもの親子をモデルにして描いた絵本です。公園でのスケッチに加え、自宅でも子がもを飼ってスケッチを重ねた絵は写実的でユーモラス。セピア一色ながら、伸びやかな線や色の濃淡がかも達をいきいきと描写します。かもの視点で描かれた構図が大胆で、かもの親子と同化して大冒険を楽しむことができます。
ロバート・マックロスキーは本作と『海べの朝』(福音館書店)でコールデコット賞を受賞しました。こちらもオススメです。
(5,6歳くらい~)
2.『ノガモのうた』木島始・文 スズキコージ・絵(ほるぷ出版)1992年6月30日
ある日、鉄砲を撃ちに行った男は不思議な鳴き声のノガモに出会いました。
ぎゃあっくっ ぎゃあっくっ ぎゃあっ!
るっ ぐるっるっ ぎょぇーっ ぎゃあっ!
男は一羽を打ち落としましたが、そのカモは落ちながら楽しそうにあの歌を歌います。カモは羽をむしられ、洗われ、鍋でぐつぐつ煮られているあいだ中、あの歌を楽しそうに歌い。
黒人民謡として知られるアメリカの民話です。逆境に耐え、しぶとく生き残る庶民の力強さを描きます。繰り返し歌われるノガモの鳴き声は泥臭くも生命力を感じさせ、スズキコージの骨太なタッチの絵は共にクライマックスをより印象的なものにしています。
思いがけない結末に釘付けになること間違いなし! どうぞノガモ達の歌を声に出して読んでください。
(5,6歳くらい~)
7月号
もうすぐ夏休み。楽しいことがいっぱいあるといいですね!
さて、7月と8月は趣向を変えて鳥に関する科学絵本を紹介します。
1.『鳥のなき声ずかん』藪内正幸 ぶん/え 篠原榮太 もじ 佐藤聰明 おと(福音館書店)1992年5月
ゼゼッポーポー ゼゼッポーポー
ピーツツピー ピーツツピー
普段よく耳にするこの鳴き声の主が誰だかわかりますか?
鳥の鳴き声と鳥の絵のみで構成された「目でみるかがくの絵本シリーズ」の一冊です。
まず、見開きいっぱいに様々にデザイン化された鳥の鳴き声が描かれます。その色や大きさ、形も推理の手助けとなり、次の頁を開くと声の主達が姿を現すという趣向です。鳴き声と同じ位置に配された鳥の絵は精密で、何気なく見ていた鳥たちがこんなにも美しかったのだと鳴き声とともに再認識させられます。
巻末にはそれぞれの鳥の簡単な解説と鳴き声の楽譜が添えられ、子どもから大人まで楽しめる絵本です。
(5,6歳くらい~)
2.『巣のはなし くふういっぱいの、いきものたちのいえ』ダイアナ・アストン 文 シルビア・ロング 絵 千葉茂樹 訳(ほるぷ出版)2015年3月20日
鳥をはじめ動物、昆虫、魚まで巣についての図鑑的絵本です。
なんといっても絵が美しい!その博物学的な絵に短い文が添えられ、巣の材質や形態などを解説しています。また、「巣はにぎやか」で始まり「そして、巣は静かになる」で終わることで、巣が期間限定の子育ての場であることを示すと同時に、一冊の絵本としてうまくまとめています。見返しはいろいろな材料で編まれた鳥の巣のイメージ。見返しの次の頁には絵本に登場する24全ての生き物が描かれた贅沢な作りで、終頁でそれぞれの巣が再び登場します。
図鑑よりはるかに大きく精密に描かれた絵を親子でじっくり楽しんでください。
(小学校1,2年生くらい~)
8月号
1.『この羽だれの羽?』作/絵 おおたぐろまり(偕成社)2013年4月
公園で見つけた鳥の羽の持ち主は誰だろう?持ち主を類推することを端緒に、羽の大きさや形の違いと役割についての解説から標本の仕方までを紹介した絵本です。
身近に見られる鳥、水辺で暮らす鳥など馴染みの19種の鳥については、鳥の羽図鑑として実際に羽を見つけたときにすぐ役立ちます。また、なぜ羽が落ちていたのか、鳥の羽のいろいろな役割、化石で発見された羽などの解説から鳥の生態や進化の歴史にも知識や興味が広がるよう工夫されています。細密で美しい絵も魅力で子どもから大人まで楽しめる一冊です。
(小学校4,5年生くらい~)
2.くちばし どれが一番りっぱ?』ビアンキ 文 田中友子 やく 藪内正幸 え(福音館書店)2006年3月25日
“まあ、なんて立派なくちばしなのかしら?” “ああ、わたしのもあんなくちばしがあったらいいのに!”ヒタキが感心しながら鳥たちのくちばしを見て回ります。どのくちばしもあんまりすばらしいのでヒタキは言いました。“ねえ、みなさん!ならんでみてくださいな。わたしがもう一度よーく見て、一番りっぱなくちばしをえらびますから” そのとき。
鳥たちのくちばしとその役割について述べた絵本です。白地に大きく描かれた鳥は大胆で、科学絵本にふさわしい写実性のみならず美術的にもすばらしく、特に鳥たちが誇らしげにくちばしを見せて並んでいる頁は圧巻です。
文が物語風に書かれているので、図鑑がまだ難しい幼い子らにもわかりやすく親しみやすい作品になっています。子ども達はヒタキと一緒になってどれが一番立派かなと考えつつ読むことでしょう。
(4,5歳くらい~)
9月号
9月に入っても、暑い毎日が続きますね。
今月はペンギンの絵本を紹介します。愛らしいペンギン達がひとときの涼風を運んでくれるかもしれませんよ。
1.『ぺんぎんたいそう』齋藤槙 さく(福音館書店)2013年10月1日
二羽のペンギンが「いきをすって~はいて~」と体操をする絵本です。
短い羽をパタパタしたり、首を伸ばしたり縮めたりとペンギン本来の動きをうまく組み合わせた楽しい体操と伸びやかな掛け声に思わず体を動かしたくなります。ペンギンの白と黒の体が映える明るい黄色の背景は、読者に元気を与えるビタミンカラーでもあります。
さあ、あなたも一緒に“ぺんぎんたいそう”をしてみませんか?
(0歳~)
2.『365まいにちペンギン』ぶん ジャン=リュック・フロマンタル え ジョエル・ジョリヴェ やく 石津ちひろ(ブロンズ新社)2006年12月25日
1月1日の朝、宅急便でペンギンが送られてきた。それから毎日、宅急便でペンギンが1羽ずつやってきて。
タイトルも表紙も一度見たら忘れられない絵本です。365日、毎日ペンギンが増え続ける一家の悲喜劇をユーモラスに描きます。三色刷で単純な絵ながら表情豊かなペンギンたちが、7日目には7羽、60日目には60羽、365日目には365羽きっちり描き込まれているから驚きです。ナンセンスなストーリーの中に環境問題のスパイスもきかせて、大人も思わずニヤリとすることでしょう。
ところで、1羽だけ足が青いペンギンのフリルゥは何日目にやってきたでしょう?もう一度初めから読み返してみてくださいね。
(小学校4,5年生くらい~)
10月号
10月に入り、秋も深まってきました。
今月は秋の夜長に親子で読みたいふくろうの絵本を紹介します。
1.『よるのおるすばん』マーティン・ワッデル ぶん パトリック・ベンソン え 山口文生 やく(福音館書店)1996年11月30日
お母さんの帰りを待ちわびる3羽のふくろうのヒナのお話です。
ある夜、ヒナ達が目を覚ますとお母さんがいません。3羽は巣穴を出て、木の枝にとまってお母さんを待つことにしました。みんなを励ましながら気丈な様子を見せるフー、フーの言葉に従って待つポー、ただただ早くママに会いたいピヨ。三者三様の心の揺れを描いて物語は進みます。美しい絵もヒナ達の様子を引き立てます。夜の闇がうぶ毛におおわれたヒナ達の柔らかな体を浮かび上がらせるようです。
もちろんお母さんは帰ってきます。どうぞ安心して、ママが大好きな子ども達と一緒に読んでください。きっと子ども達はピヨになりっきってお話を楽しむことでしょう。
(2、3歳くらい~)
2.『ふくろうのダルトリー』文 乾栄里子 絵 西村敏雄(ブロンズ新社)2011年10月25日
ひとりぼっちのふくろうダルトリー。お月さまだけがダルトリーの話し相手でした。お月さまが青白くやせてくると、ダルトリーは心配して塔のてっぺんにりんごを置きました。りんごは次の日にはいつもなくなっていたので、ダルトリーはお月さま食べたと思っていましたが。
ダルトリーの優しさが知らず知らずのうちに町の住人を幸せにする物語です。夜をイメージした暗い色調の中にダルトリーの白い体と赤いりんごが映え、いくつもの小さな幸せのエピソードが紡がれます。そして、最後はダルトリーにも。
ダルトリーの優しさに読者も温かな気持ちになる一冊です。
(4、5歳くらい~)
11月号
11月、朝夕冷え込む季節になりました。風邪をひいていませんか。
今月はからすの絵本を紹介します。
1.『カラス笛を吹いた日』文/ルイス・ローリー 絵/バグラム・イバトゥーリン 訳/島式子 島玲子(BL出版)2010年11月20日
11月の寒い朝、父と娘はカラス狩りに出かけます。父は銃を持ち、娘はカラスを呼ぶカラス笛を持って。
作者の多感な少女時代を父との思い出と共に描いた作品です。戦争で長い間不在だった父と「父さん」と気軽に呼びかけることさえできない娘。二人の間にある緊張感が命(カラス)を狩ることへの緊張感と重なります。ゆっくりと物語が進むにつれ、父と娘の距離が少しずつ縮まっていく様子を美しい絵が彩ります。秋深い木々、荒涼とした丘、そしてカラスが群れ舞う様が少女の心の内を表すようです。
静かな秋の夕べにおすすめの絵本です。
(小学校5、6年生くらい~)
2.『かあー かあー からすさん』増田純子 さく(福音館書店 こどものとも 通巻247号)2015年10月1日
1羽のカラスが赤い実を見つけて、ぱく。もうひとつ、ぱく。最後は2羽で、ぱく、ぱくと食べ、かあーかあー、かあーと鳴く。カラスを主人公にした赤ちゃん絵本です。
デザイン化されたカラス、使われているのは黒・赤・白の3色だけ、単純な繰り返しは大人の目にはつまらなく映るかもしれません。けれど、ごちゃごちゃした背景がなく対象物をはっきり捉えることができる絵も、次を予想することができる繰り返しも、赤ちゃん絵本を選ぶ際の重要なポイントです。子ども達は赤い実を指でつまんで食べる仕草をしたり、他者と分け合う喜びを感じることでしょう。
2羽のカラスは目玉の位置がほんのちょっとずれているだけですが、子ども達はカラスの違いがちゃんとわっかっているんですよ。
(0歳~)
12月号
新年の足音が聞こえる頃になりました。
〈鳥〉をテーマにお届けした今年最後の絵本は平和の象徴〈ハト〉です。来る年が皆さまにとって平和なものでありますように。
1.『ねぼすけはとどけい』ルイス・スロボドキン 作 くりやがわけいこ 訳(偕成社)2007年9月
スイスの山奥に小さな時計屋さんがありました。店の中には123個の鳩時計、その中の1個の鳩時計がいつも遅れて「ぽっぽー」と鳴くのです。その訳は。
アメリカで半世紀以上前に出版された絵本です。三色刷りながらおしゃれな絵が素敵です。そして、なんといってもストーリーが魅力的。時計が遅れる理由がユーモラスなのです。読めば思わずほほえむことでしょう。
時計屋のおじいさんと子ども達の交流が温かく、ほのぼのとした気持ちになる絵本です。絵本から読み物への移行期の子ども達にオススメです。
(小学校1、2年生くらい~)
2.『ぽっぽのぽ』石亀泰郎 写真と文 武市八十雄 案(至光社)2003年
小首をかしげたハトの表紙が目を引く写真絵本です。「ぽっぽ」は幼児語でハトのことであり、鳴き声でもあります。文字どおりハトの絵本です。
大写しにされたハトが頁によっては実物大ほどもあり、ふわふわした羽の一つ一つまで見て取れます。求愛行動が目の前で繰り広げられているかのようです。 文章は甘く、なお推敲の余地は残りますが、それを差し引いてもハトへの愛情あふれる写真に惹かれます。
ハト好きにはたまらない一冊。そうでない方にとっても、ハトがこんなにも表情豊かな生き物であることに驚かされるでしょう。
(5、6歳くらい~)
1月号
あけましておめでとうございます。
今年も楽しい絵本をたくさん紹介したいと思います。まず1月は、戌年にちなんで犬の絵本から。
1.『どろんこハリー』ジーン・ジオン ぶん マーガレット・ブロイ・グレアム え わたなべしげお やく(福音館書店)1964年3月15日
黒いぶちのある白い犬のハリーはお風呂が大嫌い。ある日、お風呂にお湯を入れる音が聞こえてきたので、家から逃げ出してどろんこになって遊びます。遊び疲れて家に帰ると、家の人は誰もハリーに気がつきません。なぜって、どろだらけのハリーは白いぶちのある黒い犬になってしまったから。そこでハリーは知っている芸当を全てやってアピールするのですが。
世界中の子ども達に最も愛されている絵本の一冊です。ハリーの行動や思考はまるで子どもそのもの。アメリカで60年以上前に出版された絵本ですが、ユーモアあふれるお話も三色刷の絵も全く古さを感じさせません。何度読んでも楽しい絵本です。『うみべのハリー』『ハリーのセーター』もあわせてどうぞ。
(4、5歳くらい~)
2.『ゆうたはともだち』きたやまようこ 作(あかね書房)1998年10月
ゆうたくんちのいばりいぬ、じんべいの視点で犬と人間の違いをユーモアたっぷりに描いた絵本です。
おれいぬ。おまえにんげん。
おまえわらう。おれしっぽふる。
短い言葉とシンプルな絵で犬と人間の対比を繰り返す構成は、一見幼い子向けの絵本と思われがちです。けれど、終頁の言葉からは他者との違いを認め合い、受け入れる含蓄の深さを感じます。
おれとおまえぜんぜんちがう。
だけどすき。だからともだち。
ゆうたくんに対して思いっきり上から目線のじんべいの語り口が笑いを誘う一冊。シリーズは全部で11冊あります。どれもくすっと笑えて、ほのぼのとする絵本です。
(3、4歳くらい~)
2月号
今年はことのほか寒い日が続きますね。
2月は節分にちなんで鬼の絵本を紹介します。
1.『鬼が出た』大西廣 文 梶山俊夫ほか 絵(福音館書店)1987年2月1日
鬼とは何か、鬼に関する知識の絵本です。
数多くの資料に基づいて由来や、鬼と人との関わりを解説しています。本格的な内容ながら「だれでも鬼になったことがある」「鬼のつくり方」などの小見出しが子ども達にも興味を抱かせる作りになっています。
ちょっと怖いけど気になる存在でもある鬼の正体を知れば、「鬼に金棒!」となるかもしれませんよ。
(小学校5、6年生くらい~)
2.『ゼラルダと人喰い鬼』トミー・ウンゲラー たむらりゅういち・あそうくみ やく(評論社)1977年9月10日
あるところに、朝ごはんに子どもを食べるのが大好きな人喰い鬼がいました。ところが、料理上手な娘ゼラルダのご馳走を食べると子どもを食べることなどすっかり忘れて。
ゼラルダと人喰い鬼が出会い、結婚するまでのお話です。物語の冒頭、人喰い鬼の存在は子ども達の心をギュッと捉えて集中させます。やがて、ゼラルダが作る数々の料理に緊張も緩み夢中になります。特に人喰い鬼のお城での代表的な夜食がずらりと並んだ見開きは、子ども達に大人気の頁です。あなたも「七面鳥の丸焼きシンデレラ風」を食べてみたいと思いませんか?
子どもの読者にとって最後はハッピーエンド。けれど、大人の読者は人喰い鬼のDNAが脈々と受け継がれているのに気がつくことでしょう。
(小学校1、2年生くらい~)
3月号
梅がほころび、春らしい陽気になってきました。
3月は花いっぱいの絵本をお届けします。
1.『やねの上にさいた花』インギビョルグ・シーグルザルドッティル さく はじあきこやく(さ・え・ら書房)2006年8月
田舎で一人暮らしを満喫していたグンニョーナおばあちゃんが、病気をきっかけに町のマンションに引っ越してきました。初めは新しい家になじめませんでしたが、やがて部屋にめんどりを飼い、ベランダに畑を作り、屋根に芝をしいて。
花や動物が大好きなグンニョーナが田舎と同じ心地よい環境を手に入れるまでの物語。
逞しいおばあちゃんの行動力とアイスランドの雰囲気をよく伝える絵が元気を運んできてくれます。子ども達は語り手である隣家の男の子に同化して聞き、そしてグンニョーナが大好きになることでしょう。
表紙のグンニョーナおばあちゃんの顔が素敵な絵本です。
(小学校4、5年生くらい~)
2.『あかいはな さいた』タク・ヘギョン 文・絵 かみやにじ 訳(岩波書店)2008年1月30日
寒つばき、おきなぐさ、チューリップ、松葉ぼたん13種のあかい花々が描かれた絵本です。
見開きに1種類ずつ、白地に水彩で描かれた花はうっとりするほど美しく、添えられた短い文が美しさをさらに引き立てるようです。一口に「あか」といってもなんと多様な「あか」が存在することでしょう。自然が持つ色の豊かさを改めて感じます。
ところで、日本では馴染みのひがんばなやシクラメンが本書には含まれていません。作者はどんな感性で13の花々を選んだと思いますか?(小学校3、4年生くらい~)