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2016年度に紹介した絵本
4月号
ピカピカのランドセルを背負った子ども達を見かける季節になりました。
新年度のスタートは、小学1年生と同じく「あいうえお」の本から始めましょう。
1.『あいうえおの本』 安野光雅(福音館書店) 1976年2月20日
字が読める人からまだ読めない幼児まで、誰もが何度も本を開いて楽しめる「あいうえお」の本です。
左頁に木目が美しい木で作られた50音の文字、右頁にはその文字がつく絵が一つ描かれただけのシンプルな作りで、写実的な美しさと暖かさを感じさせます。かんな、はさみ、筆・・・長い歴史をくぐり抜け理にかなった美しさが備わっていると作者が評した品々が「日本の伝統的形と言葉を結びつけたかった」という作者の思いを伝えます。
そして、頁の周囲には黒一色のしゃれた線描の縁飾り。中にはその頁の文字で始まるものが多数描き込まれています。いくつ見つけられますか? 何が隠れているか、そのほとんどは巻末に答えが明かされていますが、書かれていないものも。それを見つけるのがこの本を読む醍醐味かもしれません。
(2、3歳くらい~)
2.『かっきくけっこ』 谷川俊太郎 さく 堀内誠一 え(くもん出版) 2009年6月23日
音から想起する様々な色、形、デザインで50音を表したことばあそび絵本の秀作です。
例えば「か」行。「かきくけこ」に促音を加え、表題のように「かっきくけっこ」としたことで、「か」行音の特徴 角があり硬質なイメージがより鮮明になります。これほど単純明快に50音を表現する絵本は他にはなかなか見当たりません。
絵をじっと見て、そして声に出して読んでください。きっと新しい50音のイメージが広がることでしょう。
(4、5歳くらい~)
5月号
風薫る5月になりました。連休をいかがお過ごしですか。
今月は母の日にちなんで、幸せな気分にになれるお母さんの絵本を紹介します。
1.『かぜのこもりうた』 くどうなおこ 詩 あべ弘士 絵(童話屋) 1994年9月9日
元気なぞうの坊やはあっちこっちとっとこ歩き回るうちに迷子になってしまいます。さみしくて、怖くて、泣きながらうろうろ歩いていると風が歌う子守唄が聞こえてきて・・・。
元旭山動物園飼育員によるおおらかなタッチの絵がアフリカの草原の広がりを想像させる絵本です。ぞうの坊やの不安や恐怖、そしてお母さんとの再会の喜びををくどうなおこの詩が短い言葉で表現しているのもさらにイメージを広げてくれます。小さな子ども達はみな、ぞうの坊やになってこの絵本を味わいます。読後に大きな満足感を味わえること間違いなし!
文中には出てきませんが、ヤマアラシの親子が迷子のぞうに寄り添い、お母さんぞうとの再会でそっと離れていくサイドストーリーも素敵です。
(2、3歳くらい~)
2.『かあさんのいす』 ベラB.ウィリアムズ 作・絵 佐野洋子 訳(あかね書房) 1984年7月
わたしはお金をもらうと、半分だけびんに入れておきます。食堂で働くかあさんも細かいお金をびんに入れます。びんがいっぱいになったら、そのお金を持って世界で一番すてきないすを買いに行くのです。
火事で焼け出された<わたし>の家族が新しいいすを買うまでを丁寧に描いた作品です。苦しい生活の中で懸命に生きる尊さ、人との繫がりやぬくもりが、やわらかな水彩画からしみじみと伝わってきます。
そして、念願叶って手に入れたいすの何と美しいこと! バラ模様が付いたビロードの大きないすにかあさんと座って眠ってしまうわたしの姿は穏やかな日常の一頁であり、幸せの象徴として心に残ることでしょう。
(小学校3、4年生くらい~)
6月号
6月第3日曜日は父の日です。今月はステキなお父さんの絵本を紹介します。父の日のプレゼントに一緒に読んではいかがでしょう。
1.『きはなんにもいはないの』 片山健(学研) 2005年10月5日
お父さんと子どものごっこ遊びをほのぼのと描いた作品です。
<木>になったお父さんはすーくんが何を言っても「きはなんにもいはないの」と心の中でつぶやくだけ。その繰り返しがリズムを作って、心地よく読むことができます。作品全体が子を見守る父の暖かな愛情に包まれており、幸せな気持ちになる絵本です。
どうぞお父さんが読んであげてください。お父さんと遊ぶすーくんの喜びや安心感をお子さんと共有してくださいね。イクメン必読(!?)の一冊です。
(4、5歳くらい~)
2.『あたまにつまった石ころが』 キャロル・オーティス・ハースト 文 ジェイムズ・スティーブンソン 絵 千葉茂樹 訳(光村教育図書) 2002年7月1日
石が好きで好きで仕方ないお父さんの人生を実の娘が尊敬と愛情をもって綴った実話です。
好きなことを職業にできる人は、世の中そう多くはありません。人から「ポケットにもあたまのなかにも石ころがつまっている」と後ろ指をさされても、世界恐慌で事業に失敗しても、好きなことを貫き通したお父さんに勇気を与えられます。スプリングフィールド科学博物館の館長に就任したという作者の後書きに、思わずガッツポーズをしたくなるほどです。起伏の多い人生でありながら軽やかなタッチの絵も押しつけがましくなく好感が持てます。
読めばきっと誰かの好きを応援したくなりますよ!
(小学校5、6年生くらい~)
7月号
動物は好きですか? 犬やねこ、シマリス、オカメインコ、かめ…などのペットを飼っている人もいることでしょう。
今月はちょっと変わったペットの絵本を紹介します。あなたなら、こんなペットを飼ってみたいですか?
1.『ブラウンさんのネコ』 スラウォミール・ウォルスキー 作 ヨゼフ・ウィルコン 絵いずみちほこ 訳(セーラー出版) 1988年8月5日
もしも飼いねこがトラだったら…。
ブラウンさんはこげ茶のしましまネコ「とら″を飼い始めました。ところが、とらは本当のトラでした。トラを飼えるはずもなく、動物園やサーカスにとらの預け先を求めますが、ブラウンさんの出した結論は…。
ポーランドの絵本です。甘えん坊のとらの表情を見ていると、トラだからといって簡単に見放すことができないブラウンさんの気持ちに納得。最後まで、どうするんだろう? とドキドキしながら読むことができます。美しい絵とともに意外な展開、そして衝撃のラストをお楽しみください。
(4、5歳くらい~)
2.『きょうりゅうのかいかた』 くさのだいすけ ぶん やぶうちまさゆき え(岩波書店) 1983年11月15日
動物が大好きなまきととめぐみの兄妹が「もっと大きい動物を飼わせて″とお父さんに言ったら、なんとお父さんは恐竜の子どもをもらってきました! まきととめぐみは「どん″と名付けた恐竜の家を作り、トイレを作り、えさをやり、お風呂に入れて、予防注射もしました。ところが、どんは元気がなくなって…。
すべてが架空の話でありながら、リアルな絵と文が現実味をもって読ませてくれる絵本です。小型絵本の中から飛び出しそうなほどダイナミックに描かれた恐竜の絵が、子ども達に自分も恐竜を飼ってみたいと思わせます。子どもたちは終ページに描かれた登録カードの項目一つ一つまで楽しんで読むことでしょう。
(5、6歳くらい~)
8月号
8月11日は山の日です。今年から施行されました。
今月は山の日にちなんで、山が主役の2冊を紹介します。
1.『ことりをすきになった山』 エリック=カール 絵 アリス=マクレーラン 文 ゆあさふみえ 訳(偕成社) 1987年10月1日
ある日のこと、一羽のことりが岩山へやってきました。ことりの名前はジョイ。ジョイは岩山と約束します。“わたしのむすめにジョイという名前をつけましょう。そして、春ごとにあなたにうたをおきかせするよういいのこします。それからその子がまたそのむすめにジョイと名づけ、ここへくる道をおしえるようにと。”
ひとりぼっちの岩山とことりとの永い年月を経た愛の物語です。灰色だった岩肌が鮮やかな緑に変化するまでを、エリック=カールのコラージュが独特の色彩感覚で美しく彩ります。作者のマクレーランは文化人類学者。自然の摂理を愛情豊かに描いています。
読めば必ずジョイの名にふさわしい喜びが訪れることでしょう。
(5、6歳くらい~)
2.『おーい、ふじさん!』 しゃしんとことば 大山行男(クレヴィス) 2014年7月20日
日本人なら誰もが知っている富士山のうっとりするほど美しい写真絵本です。
黄金に輝く富士山、夕日に染まる富士山、雲を呼び寄せ、風と遊ぶ富士山・・・。富士山に魅了されて40年という作者が深い愛情と敬意をもって撮した写真の数々が、今まで知らなかった富士山の姿を見せてくれます。富士山と対話形式で書かれた易しい言葉も魅力で、山も、雷も、月も、町も、私も、仲間なのだと自然に教えてくれます。
おーい、ふじさぁぁぁん!
この次に富士山に出会ったら、きっと呼んでみたくなりますよ。
(小学校1、2年生くらい~)
9月号
9月になっても暑い日が続きますね。
今月のテーマは、秋の味覚「サンマ」です。絵本の中にちょっぴり季節を先取りしてみませんか。
1.『きょうのごはん』 加藤休ミ(偕成社) 2012年9月
なんとも食欲をそそる表紙です。
きょうのごはんは なーに? こんがり焼けたサンマ、とろーりカレーライス、ふんわりとしたオムライス、きつね色のコロッケ・・・おなじみの家庭料理が本当においしそう! クレヨンとクレパスで描かれた本物そっくりの料理たちが誇らしげに迫ってくるようです。そして、いいにおいに誘われて、あっちのごはん、こっちのごはんとのぞいていたネコにもステキなごはんが待っています。食べることが大好きな人にも、食の細いお子さんにもオススメの絵本です。
ところで、商店街に描かれた人々が後のページにも登場しています。誰がどこにいるかな? 探してみてください。
(4、5歳くらい~)
2.『とてもおおきなサンマのひらき』 岡田よしたか(ブロンズ新社) 2013年11月
買い物が大好きなまたやさんの奇想天外なお話です。
ある日、またやさんは巨大なサンマのひらきを買いました。ところが、食べようとしたらサンマは体を振り回して大暴れ。焦げ目をつけたまま、どこかへ去っていきました。次の日は巨大なスルメ、その次の日は巨大なたいやき。3度も同じことが続いたら、さすがのまたやさんも「もう あんな おおきいやつは ぜったいに かわん!」と心に決めたのですが・・・。
ナンセンスなストーリーを大阪弁がくるりと包み込んだ愉快な絵本です。「またや」「またやがな」の繰り返しが情けないやら、おかしいやら。また、市場に必ず登場する人々にも注目です。いるいるこんな子、こんな人と爆笑すること請け合いです。
親子で、友だちと一緒に、大勢で楽しんで読んでください。
(5、6歳くらい~)
10月号
10月に入って、ようやく暑さもやわらいできましたね。秋の夜長、何をして過ごしていますか?
今月は、眠れぬ夜の物語を紹介します。
1.『アルフィとくらやみ』 エロール・ル・カイン え サリー・マイルズ ぶん ジルベルトの会 やく(評論社) 2004年12月20日
もし、あかりをつけたら、くらやみはどこへいっちゃうんだろう?
気になってどうしても眠れないアルフィは、とうとうくらやみにはなしかけ・・・。
この作品はアルフィの内面を描いたものですが、アルフィとくらやみの対話という形で描かれているので、幼い子らも共感しやすい内容になっています。子ども達にとって真っ暗な闇は恐ろしいもの。でも、アルフィはくらやみに親しみを感じている様子です。また、くらやみの方も、アルフィが友だちになってくれなかったらどうしようと考えるような、ちょっと気弱で愉快な存在として描かれます。表情豊かなくらやみの絵も魅力です。
この本を読んだら電気を消した子ども部屋で一人で寝るのも、きっと平気になりますよ!
(4、5歳くらい~)
2.『よぞらをみあげて』 ジョナサン・ビーン 作 さくまゆみこ 訳(ほるぷ出版) 2009年2月20日
眠れない少女がビルの屋上に居心地のいい場所を見つけて眠りにつくまでを描いた作品です。
穏やかなタッチの絵、特に夜空が美しい絵が夢の中へ誘うよう。小型の絵本ながら、広がりを感じさせます。少女に寄り添うネコ、そっと見守るお母さんの存在もステキです。夜空の色に合わせたブルーグレーの見返しもセンスがよく、特に大人の女性にオススメの絵本です。
(小学校5、6年生くらい~)
11月号
りんごがおいしい季節です。店頭には様々な種類のりんごが並んでいますね。
11月は食べごたえのある(?)巨大なりんごの絵本です。
1.『りんごがドスーン』 作・文・絵 多田ヒロシ(文研出版) 1975年10月
大きなりんごがドスーン! 空から落ちてきました。りんごを食べに集まってきたのは、りす、うさぎ、ぶた、きりん、ぞう・・・他にもたくさん! 「みちゃ みちゃ みちゃ」「ちゅう ちゅう ちゅう」「しゃり しゃり しゃり」と、オノマトペも愉快な絵本です。
ページをめくるたびにお馴染みの動物たちが登場し、おいしそうにお腹いっぱいになるまで食べる繰り返しのストーリーと幸せで意外なラストが大きな満足感をもたらします。絵が白地に大きく描かれ、言葉は少なめ。たっぷり絵を楽しむ絵本なので、小さい子ども達にも向きますよ。
ところで、最初から最後まで食べ続けている動物がいます。一番の食いしん坊は誰でしょう?
(1、2歳くらい~)
2.『おばけリンゴ』 ヤーノシュ さく やがわ・すみこ やく(福音館書店) 1969年3月31日
ワルターはリンゴの木を1本持っていました。けれども、この木には1つも実がなったことがありません。花さえ咲いたことがありません。ある夜、ワルターは心を込めて祈りました。 「ひとつでいいから、うちのきにもリンゴがなりますように」 ワルターのささやかな願いは叶えられました。ところが・・・。
油絵の具を塗りたくった子どものような絵は、しかし、深みのある色使いと大胆な構図で読者の心をとらえます。何より、子ども達は1つのリンゴに一喜一憂するワルターの心にぴったり寄り添って楽しむことでしょう。
物語の終わりに、ワルターはもう一度祈りをささげます。この願いは叶えられるのでしょうか?
(小学校1、2年生くらい~)
12月号
今年も残すところあと1か月になりました。皆さんはこの一年をどのようにお過ごしでしたか?
今月は、一年の時の流れを感じる絵本2冊を紹介します。
1.『にぐるまひいて』 ドナルド・ホール ぶん バーバラ・クーニー え もきかずこ やく(ほるぷ出版) 1980年10月15日
10月、とうさんは荷車に牛をつないで、羊の毛、ショール、手袋、ろうそく、じゃがいも、はちみつ、かぶとキャベツ・・・などなど、家族みんなで作り育てたもの全てを積んで、町の市場へ出かけます。全部売って、荷車と牛まで売り払い、そのお金で鍋やナイフ、刺繍針など生活に必要なものを買って、とうさんは歩いて家に帰ります。そうしてまた、家族の新しい一年が始まるのです。
19世紀初めのニューイングランド地方に住む農家の一年を描いた絵本です。優しく丁寧な文章で古き良き時代ののどかな暮らしぶりが紡がれ、板に描かれた絵は美しく、素朴で味わいがあります。取り立ててクライマックスがあるわけではありませんが、穏やかな生活の中に平凡な幸せをしみじみと感じさせてくれる絵本です。
(小学校5、6年生くらい~)
2.『はるにれ』 姉崎一馬 写真(福音館書店) 1981年11月10日
北海道の大地に立つにれの木の一年を撮った写真絵本です。
秋の平原に一人そびえる孤高を、冬の厳しさに耐える勇気を、闇の中で思考する静謐を、朝靄の中で見る夢を、夏の空にあふれ出す歓喜を・・・カメラは定点観測のように切り取っていきます。遠くに見えるにれの木の気高さも、見上げる木の力強さも、全てに惚れ込んで撮影したのであろう作者の姿も感じられることでしょう。
文字はありません。どうぞ、にれの木と対話しながら読んでください。同じ地球に住む者として、きっと共感するところ大! ですよ。
(小学校3、4年生くらい~)
1月号
あけましておめでとうございます。2017年、酉年が始まりました。刻を告げる雄鶏のように、皆様に元気な一年が訪れますように。今年も千代田公民館をよろしくお願いします。
さて、今年は酉年にちなんで、一年間〈とり〉の絵本を紹介したいと思います。まずは、ニワトリから。
1.『コッケモーモー!』 ジュリエット・ダラス=コンテ 文 アリソン・バートレット 絵たなかあきこ 訳(徳間書店) 2001年11月30日
ある朝、夜明けを告げようと、おんどりは大きく息をすいこみました。ところが・・・。
「コッケモーモー!」「どうしたの? モーモーはうしのなきごえよ」
「コッケガーガー!」「おかしいの。ガーガーはあひるのなきごえよ」
子ども達の大好きなオノマトペをふんだんに盛り込んだユーモラスなやりとりが繰り返されます。
鳴き声を忘れたおんどりが自信と誇りを取り戻すまでのお話は、読者を幸せな気持ちにしてくれます。表紙・見返し・本編ともに明るく元気な色遣いも魅力。朝の読み聞かせにも最適の一冊です。
(4、5歳くらい~)
2.『ロージーのおさんぽ』 パット=ハッチンス さく わたなべしげお やく(偕成社) 1975年8月
きつねの存在に気づきもせずにすたすたと歩くめんどりのロージーと散々な目に合うきつねとの対比が愉快な絵本です。
庭を横切り、池をまわり、干し草の山をこえて・・・と短い文章はロージーの散歩を淡々と伝えるのみですが、その分絵が雄弁に物語ります。なんとかロージーを捕まえようと必死になっているきつねから目が離せません。三色刷のデザイン化された絵がきつねの躍動感を見事に表しています。
どうぞ、親子で言葉を補いあいながら読んでください。絵本が「絵を読む本」であることを実感できる絵本です。
(5、6歳くらい~)
2月号
渡り鳥が北の国へ帰る季節になりました。2月は渡り鳥の代表格、白鳥の絵本を紹介します。
1.『みにくいあひるの子』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン さく スベン・オットー・S え きむらゆりこ やく(ほるぷ出版) 1979年7月15日
アンデルセン童話の中でも特に有名な作品です。けれど、全訳で読んだことがある方は、案外少ないかもしれません。
この本は美しい水彩画と全訳で「みにくいあひるの子」の世界を余すところなく伝えてくれます。絵本とはいえ文量が多く、読むのに20分以上かかりますが、言葉が尽くされているからこそ、みにくいあひるの子の過酷な運命が胸に迫ります。また、子ども達は「うなぎの頭の取り合い」のような小さなエピソードも大いに楽しみます。
逆境を耐えた末につかんだ幸せの物語を再読してみませんか。
(小学校1、2年生くらい~)
2.『おおはくちょうのそら』 手島圭三郎(リブリオ出版) 2001年1月31日
白鳥たちが生まれ故郷の北の国へ帰る日がやってきました。けれど、暗くなっても出発できない6羽の家族がありました。子どもが病気で飛ぶことができないのです・・・。
大胆な構図と色遣いが読者を引きつける版画絵本です。白鳥の白と多用された青のグラデーションが雄大な北海道の風景をよく伝え、また、短い文が家族の愛情と厳しい自然界における生と死を深く語りかけてきます。
この本は、1988年ニューヨークタイムズ紙が選ぶ世界の絵本ベストテンにも選出されました。北海道出身の作者はふるさとの自然や伝承をもとに多くの絵本を描いています。中でも『きたきつねのゆめ』『ひぐまのあき』がオススメです。
(小学校3、4年生くらい~)
3月号
うぐいすの初音が待ち遠しい季節になりました。3月はうぐいすの絵本を紹介します。
1.『ウグイスホケキョ』 三宮麻由子 ぶん 飯野和好 え (ちいさなかがくのとも 通巻96号) 2010年3月1日
鳴くのが下手なウグイスが練習を繰り返して“ホーホケキョ”と上手に鳴けるまでを描いた絵本です。
ウグイスは「春告げ鳥」とも呼ばれ、“ホーホケキョ”の鳴き声は誰もが知っているところ。でも、初めから上手に鳴けるわけではないようです。
フフー フフー ホキョ
フフー フキ フキッ
フキュ キチュ
ホホケキョ キキキョ ・・・
おかしなウグイスの鳴き声に初めは笑いながら復唱する子ども達も、間もなくウグイスに心を寄せ、ウグイスと同化して、必死に練習を始めます。ウグイスが黙々と努力を続け見事に鳴けるようになった時、子ども達の声もまた誇らしげに“ホーホケキョ”と響くことでしょう。
読み聞かせに大人気の絵本です。ハードカバー化が待たれます。
(4、5歳くらい~)
2.『みるなのくら』 おざわとしお 再話 赤羽末吉 画 (福音館書店) 1989年3月25日
「みるなの座敷」「うぐいす浄土」などの名前でも知られる日本の昔話です。
山奥へ迷い込んだ若者が大きな屋敷に一夜の宿を借ります。次の日、姉様から留守を頼まれ、一の倉から十一の倉までは見てもよいが十二の倉は決して見ないように言われるのですが・・・。
赤羽末吉の重厚な絵が美しい日本の四季と昔話の世界観を伝える絵本です。芸術性の高い絵をいかすために文が最小限に抑えられています。どうぞ絵を存分に味わってください。
小澤俊夫・赤羽末吉のコンビで5冊の昔話絵本が作られました。『うまかたやまんば』『かちかちやま』もあわせてどうぞ。
(小学校2、3年生くらい~)